簿記1級は税理士試験にどこまで通用する?簿記論で沈んだ1級保有者の勉強法

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簿記1級は税理士試験にどこまで通用する?簿記論で沈んだ1級保有者の勉強法

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簿記1級の知識は、税理士試験の簿記論・財務諸表論にそのまま土台として効きます。ただし、簿記1級に受かった勉強のやり方のほうは、そのまま持ち込むと通用しません。これが、両方を受けた僕の結論です。

僕は経理歴18年、日商簿記1級を持っています。1級は2回落ちて、アウトプット中心に切り替えた3回目で合格しました。そして2026年8月、税理士試験(簿記論・財務諸表論)を受けて、簿記論の第3問でほとんど手が出ないまま終わりました。1級を持っているのに、です。

この記事では、その原因も含めて次の3点を書きます。

  • 簿記1級のどこが簿記論・財務諸表論に通用して、どこが通用しないのか
  • 簿記1級と簿記論の違い(合格基準・出題範囲・評価のされ方)
  • 1級保有者が簿財に向かうときに、最初に変えるべきこと

簿記1級は税理士試験にどこまで通用するのか

簿記1級から税理士試験への進み方。簿記論・財務諸表論は受験資格が不要で、簿記1級は税法3科目の受験資格になる

先に結論を分けておきます。通用するのは知識と受験のハードル、通用しないのは勉強のやり方です。

通用するもの:商業簿記・会計学の知識

簿記1級で学ぶ商業簿記・会計学は、簿記論・財務諸表論の土台にそのままなります。連結会計、企業結合、退職給付、税効果といった論点は、名前も考え方も共通です。ゼロから始める人が最初の数百時間で通る道を、1級保有者はすでに通っています。

計算のスピードと正確さも、そのまま持ち込めます。簿記1級は制限時間に対して問題量が多い試験なので、電卓と下書きの手の速さは鍛えられています。

通用するもの:税法科目の受験資格

もう1つが受験資格です。ただし、ここは2023年(令和5年度・第73回)から制度が変わっているので注意してください。

  • 簿記論・財務諸表論(会計学に属する2科目)は、受験資格の制限がありません。 誰でも受けられます
  • 簿記1級が受験資格として効くのは、税法に属する3科目のほうです(学識・資格・職歴のいずれかを満たす必要があり、簿記1級は「資格」の要件にあたります)

つまり、「簿記1級を取らないと簿財が受けられない」は、もう当てはまりません。 簿記1級は、その先の税法科目に進むときのパスポートです。

クロマル
クロマル

年齢・資格取得等の要件がなくなり、税理士試験に挑戦するハードルが下がったと言えます。

通用しないもの:簿記1級で結果を出した勉強法

ここが本題です。僕が簿記論で沈んだ原因は、知識ではなく勉強のやり方でした。

僕は資格試験を、問題と解答を1ページで見比べられる形にして、高速で周回するやり方で通ってきました。1級のあとに取ったFPや税法能力検定は、この方法で結果が出ています。

ところが税理士試験では、この方法が機能しませんでした。理由は、試験の性質が違うからです。

FP・税法能力検定など税理士試験
評価のされ方絶対評価(基準点を超えれば合格)相対評価に近い(周りとの比較で決まる)
出題同じ問題・似た問題が繰り返し出る毎回ちがう問題が出る
求められる力見て分かる(認識)白紙から出せる(再生)

「見て分かる」と「白紙から出せる」は、同じ”勉強”という言葉で呼ばれているだけで、別の能力です。 前者しか鍛えていない状態で初見の問題に向かうと、手が止まります。

科目ごとにどれくらいの時間が要るかは、税理士試験の効率的な勉強時間の使い方でも整理しています。

簿記1級と簿記論、何が違うのか

数字と制度の面でも、はっきり違いがあります。ここは誤って書かれていることが多いので、公式の記載で確認しておきます。

日商簿記1級税理士試験 簿記論
出題科目商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算の4つ商業簿記のほか工業簿記を含む。ただし原価計算を除く
合格基準70%以上。ただし1科目ごとの得点が40%以上満点の60パーセント
実際の決まり方基準は固定だが、合格率は回ごとに動く基準は60点。実際は周りとの比較で決まる
試験時間90分+90分(途中休憩あり)120分
理論の書かせ方記号・語句の選択が中心計算のみ(理論を記述させるのは財務諸表論)

出典は日本商工会議所と国税庁です(いずれも2026年9月5日確認)。

「1級のほうが範囲は広い、簿記論のほうが深い」

範囲でいえば、原価計算まで入る簿記1級のほうが広いです。簿記論も出題範囲としては工業簿記を含みますが、原価計算は除かれます。そのうえで簿記論は、商業簿記を、より深く・より速く問われます。

僕が受けた第76回の簿記論は、時間内に全部を解き切れる量ではありませんでした。解ける問題を拾って積み上げる試験であって、全部を正確に埋める試験ではない、というのが受けてみての実感です。

合格率は「10%前後」ではなくなっている

簿記1級の合格率は「10%前後」と説明されることが多いですが、直近の統一試験を並べると次のとおりです。

回施行日受験者数合格者数合格率
第173回2026年6月14日9,806名2,076名21.2%
第171回2025年11月16日10,524名1,604名15.2%
第170回2025年6月8日9,610名1,343名14.0%
第168回2024年11月17日10,420名1,572名15.1%
第167回2024年6月9日9,457名992名10.5%

10.5%から21.2%まで、回によって倍近く動きます。 「10%前後の難関」という前提だけで受験時期を決めないほうがいい、という程度には差があります。

簿記1級を持っていた僕が、簿記論の第3問で沈んだ話

筆者の日商簿記1級の合格証書

ここからは実際にあったことを書きます。読んで気持ちのいい話ではありませんが、1級保有者が同じ穴に落ちないためにいちばん役に立つのはここだと思うので、そのまま書きます。

当日、何が起きたか

簿記論はペース配分を間違えました。前半に時間を使いすぎて、途中で気力が切れ、第3問はほとんど解けないまま終わりました。

財務諸表論は、もともと理論と計算を半々でいくつもりでしたが、実際は理論20分・計算100分。それでも終わりませんでした。

原因は「読んで分かった気になる」勉強に戻っていたこと

振り返ると、直前期の勉強がこうなっていました。

問題を読んで、解答を読んで、難しそうなところだけもう一度見直す。

自分で問題を見て、手を動かしてから解答を見るというプロセスを、ずっと飛ばしていました。理論は覚えるところがあるのでこれでも進みますが、計算はこのやり方では解けるようになりません。

そして、解けるところは飛ばして解けないところを繰り返す、という弱点補強のサイクルが回らなくなります。模試が直前に集中したので、かき集めた結果「全部頭に入れなきゃ」と焦ったのも大きかったと思います。

いちばん認めたくなかったこと

薄々気づいていたはずなのに、気づかなかったことにしていました。

高速周回法は、FPと税法能力検定で実際に結果を出した方法です。だから捨てにくかった。うまくいった方法ほど、通用しない場所に持ち込んでしまう——怠けていたのではなく、成功体験を持ち越していた、というのが正確なところです。

下書きが書けなかった

もう1つ、はっきり足りなかったのが下書きです。

学習を立て直した初日、問題集が「6分」と指定している問題に取りかかったところ、問題を読んで、どう下書きするかを試行錯誤しているうちに6分が終わりました。

そして気づいたのですが、問題集にも模試の解説にも、下書きの”形”は書かれていません。 内容の解説はありますが文章が中心で、そのとおりに全部書いていたら20分以上かかります。計算対策の根幹はここなのに、参照できるものが少ない。

ちなみに、良い教材は最初から持っていました。『税理士 簿記論 個別問題の解き方』(全99問)です。教材選びではなく、使い方の問題でした。

なぜ、それでも受けるのか

念のため書いておくと、僕がこの試験を受けているのは「取ると得だから」ではありません。

いい加減1科目でも2科目でも受かって、難関資格が取れていないという呪縛みたいなものから解放されたい、というのが正直なところです。誰かが呪縛をかけているわけではなく、時間もお金もかけたのに、という自分の思いです。

動機がここにある人は、たぶん僕だけではないと思っています。

1級保有者が簿記論・財務諸表論へ進むときの学習法

以上を踏まえて、1級を持っている人が最初に変えるべきことを3つに絞ります。

1. 手を動かしてから解答を見る形に戻す

アウトプット先行に戻すのが最優先です。 僕が簿記1級に3回目で受かったときにやっていたのは、まさにこれでした。

  • 問題を先に解く(解けなくても、手を止めた場所まで書く)
  • 間違えた論点だけ、テキストや講義でインプットする
  • もう一度、白紙から解く

1級のときに効いた形を、税理士試験でやめてしまっていた——というのが、僕の失敗の要約です。

いま僕が簿記論で使っているのは、ネットスクールの『過去問ヨコ解き問題集』です。過去問が年度別ではなく論点別に並んでいて、簿記論は70問・17論点、各論点3〜5問という構成になっています。1日1問、解答を見ずに下書きから書く、という使い方をしています。

財務諸表論にも同じシリーズがあります。こちらは78問収録で、第74回まで入っています。

2. 下書きの形を、先に決めておく

下書きは、本番で考えるものではなく、事前に型として決めておくものです。 解説には形が書かれていないので、個別問題の解き方を扱った問題集で「この論点はこの形で書く」を確定させておくのが早道です。

型が決まっていれば、本番で手が止まる時間がなくなります。逆に言えば、型が無い状態で総合問題に入っても、時間配分は永久に安定しません。

3. 「全部を解く」をやめて、拾う練習をする

簿記論は時間内に全部を解ける量ではありません。解ける問題を見つけて確実に拾う練習——つまり、問題を見て「これは後回し」と判断する練習が、そのまま得点になります。

これは簿記1級でも同じでした。試験の中で解く優先順位は、次の順です。

  • 自分が「解ける」と感じた問題(得意分野、簡単な問題)
  • 過去問や予想問題と形式が似ている問題(標準的な問題)
  • 見慣れない問題(会計基準の改定直後、奇問など)

3つ目に時間を使っても、奇跡は起きません。 1つ目と2つ目に時間を使ってください。

これから簿記1級を取る人へ

ここまでは1級保有者向けの話でした。これから簿記1級を取る段階の人に向けて、必要な部分だけまとめます。

  • 試験科目: 商業簿記・会計学(90分)/工業簿記・原価計算(90分)。途中に休憩があります
  • 合格基準: 70%以上。ただし1科目でも40%未満があると不合格です
  • 税理士試験との関係: 簿財は受験資格が不要なので、簿記1級は「税法科目に進むためのパスポート」と考えるのが正確です

独学での勉強法

独学で進めるなら、アウトプット中心に割り切ることをおすすめします。テキストを熟読しても、身についたかどうかは自分では分かりません。問題演習を先に置き、足りない部分をスキマ時間のインプットで埋めるサイクルにすると、働きながらでも進みます。

  • アウトプット(問題演習)の時間を、机に向かえる時間に確保する
  • インプットは通勤などのスキマ時間で補う
  • アウトプット → 不足分をインプット → もう一度アウトプット

この形そのものは簿記2級でも同じです。具体的な回し方は簿記の勉強法にまとめています。

アウトプットを机に向かえる時間に置き、インプットをスキマ時間に回すサイクルの図

予備校やオンライン講座の活用

独学で回らないと感じたら、講座を検討する段階です。特に工業簿記・原価計算は、独学で詰まったときに聞ける相手がいるかどうかで進み方が変わります。

講座を選ぶときに見るのは、カリキュラムの体系性と、スキマ時間にインプットを回せるかの2点です。

僕が簿記1級を取ったのは学生のときで、当時はクレアールの通信講座と、校舎の個別ブースでの受講を併用していました。学生や、まとまった時間が取れる人なら、こうした「通う形」も選択肢に入ります。働きながらで移動時間しか使えないなら、後述のスタディングのようにスキマ時間で回せる講座のほうが現実的です。

当時と今ではカリキュラムが変わっているので、最新の内容は資料で確認できます

通学と通信の両方から選べる

一方、働きながらで移動時間しか使えないなら、次に挙げるようなスキマ時間で回せる講座のほうが現実的です。

僕のおすすめは、簿記2級でも紹介したスタディングの簿記講座です。簿記2級以上に問題演習の時間が必要な簿記1級では、スキマ時間をインプットに回せるかどうかが効きます。

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よくある質問

Q. 簿記1級を持っていれば、簿記論は有利ですか?

A. 知識の面では明確に有利です。商業簿記・会計学が共通なので、ゼロから始める人より先に進んだ位置にいます。ただし簿記1級に受かった勉強法をそのまま持ち込むと通用しません。相対評価で初見の問題が出るため、「見て分かる」ではなく「白紙から出せる」状態まで持っていく必要があります。

Q. 簿記1級を取らないと、簿記論・財務諸表論は受けられませんか?

A. 受けられます。令和5年度(第73回)から、簿記論・財務諸表論は受験資格の制限が撤廃されました。簿記1級が受験資格として必要になるのは、税法に属する3科目のほうです。

Q. 簿記論に工業簿記・原価計算は出ますか?

A. 出題範囲には工業簿記が含まれます。除かれるのは原価計算のほうです(国税庁の受験案内)。ただし実際に問われるのは商業簿記が中心です。逆に言うと、簿記1級で原価計算に費やした時間は、簿記論には直接効きません。

Q. 簿記1級の合格率はどのくらいですか?

A. 統一試験の直近5回で10.5%〜21.2%です(本文の表を参照)。「10%前後」と言われますが、回によって倍近く動きます。

まとめ

  • 簿記1級の知識は簿記論・財務諸表論にそのまま効く。勉強法は効かない
  • 簿記論は60点が基準で、実際は周りとの比較。簿記1級は70%かつ各科目40%以上。ここは取り違えられていることが多い
  • 簿財は受験資格が不要(令和5年度〜)。簿記1級が効くのは税法3科目
  • 1級保有者が最初に変えるのは、手を動かしてから解答を見る形に戻すことと、下書きの型を先に決めること

簿財の講座選びについては、スタディングの税理士講座の使い方で、実際に使っている側から書いています。

僕自身、まだ受かっていません。この記事は「こうすれば受かる」ではなく、1級を持っているからこそ落ちた穴の記録です。同じ順路を通る人が、同じ穴を避けられればと思って書きました。

簿記1級からのステップアップも!