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社会人が税理士試験でつまずくのは、勉強時間の総量ではありません。足りなくなるのは、机に向かってペンを持つ時間のほうです。
僕は経理歴18年、日商簿記1級を持っています。2026年8月の第76回で簿記論と財務諸表論を受けて、簿記論の第3問はほとんど手が出ないまま終わりました。通勤と昼休みは使っていました。それでも足りなかったのは、時間の長さではなく、時間の種類でした。
この記事でわかることは3つです。
- スキマ時間で増やせるものと、増やせないもの
- 「高速で周回する」勉強法が効く試験と、効かない試験の違い
- 社会人が最初に受けるべき科目と、1年の動き方(公式の日程・手数料つき)
スキマ時間で増やせるのは「インプット」だけだった
社会人向けの勉強法は、たいてい「スキマ時間を積み上げれば時間は作れる」と書いてあります。半分は本当です。ただし積み上がるのは、読む・聞く側の時間だけです。
通勤電車で講義を聞く、昼休みに理論を目で追う。ここまでは実際にできます。できないのは、白紙に自分で書くことです。電車の中で総合問題の下書きは書けません。


スキマ時間はインプット、机の上での勉強時間はアウトプットに充てましょう
手が止まったのは、知識ではなく下書きだった
第76回のあと、学習を立て直した初日のことです。問題集が「6分」と指定している問題に取りかかったところ、問題を読んで、どう下書きするかを試行錯誤しているうちに6分が終わりました。
知識が無かったわけではありません。書く手順を持っていなかっただけです。
そしてもう1つ気づいたことがあります。問題集にも模試の解説にも、下書きの”形”は書かれていません。内容の解説はありますが文章が中心で、そのとおりに全部書いていたら20分以上かかります。計算対策の根幹はここなのに、参照できるものが少ない。
スキマ時間をいくら積んでも、この部分は1ミリも進みません。下書きは、机とペンと時間のまとまりが要る作業だからです。
だから「時間の総量」ではなく「机の時間」で計画する
社会人の学習計画は、たいてい「1日◯時間」で立てます。この立て方だと、通勤の30分も机の30分も同じ1マスに見えます。実際には別物です。
僕がすすめるのは、2種類に分けて数えるやり方です。
| 種類 | 使える時間 | やること |
|---|---|---|
| インプット | 通勤・昼休み・始業前 | 講義の視聴、理論の音声、一問一答 |
| アウトプット | 帰宅後・休日のまとまった時間 | 総合問題、下書きの練習、答練の解き直し |
平日にアウトプットが1分も入っていない週があったら、その週は進んでいません。時間そのものは使っているので、手応えだけは残ります。ここが落とし穴でした。

月に2~3日は予備日を設けて、計画に遅れが出ないようにしましょう。モチベーションの維持にもつながります。
「高速で周回する」勉強法が効く試験と、効かない試験
僕は資格試験を、問題と解答を1ページで見比べられる形にして、高速で周回するやり方で通ってきました。FPや税法能力検定は、この方法で結果が出ています。
ところが税理士試験では機能しませんでした。方法が悪いのではなく、試験の性質が違うからです。
| FP・税法能力検定など | 税理士試験 | |
|---|---|---|
| 評価のされ方 | 絶対評価(基準点を超えれば合格) | 相対評価に近い(周りとの比較で決まる) |
| 出題 | 同じ問題・似た問題が繰り返し出る | 毎回ちがう問題が出る |
| 求められる力 | 見て分かる(認識) | 白紙から出せる(再生) |
「見て分かる」と「白紙から出せる」は、同じ”勉強”という言葉で呼ばれているだけで、別の能力です。
高速周回そのものを捨てる必要はありません。基礎期のインプットでは有効です。ただし直前期にこのやり方のままでいると、初見の問題で手が止まります。切り替える時期を決めておくのが安全です。
このあたりは、簿記1級との比較の形で簿記1級は税理士試験にどこまで通用するかに詳しく書きました。
社会人が最初に受けるなら、会計科目の2つ
税理士試験は科目合格制です。一度に5科目を受ける必要はなく、1科目ずつ受けてかまいません(国税庁)。だからこそ、どこから入るかが社会人にはいちばん効きます。
結論としては、簿記論と財務諸表論の2科目から入るのが素直です。理由は2つあります。
理由1:受験資格が要らないのは、この2科目だけ
令和5年度(第73回)から、会計学に属する科目(簿記論・財務諸表論)は受験資格の制限がなくなりました。誰でも受験できます。
一方、税法に属する科目には受験資格が要ります。学識・資格・職歴のいずれか1つを満たせば受験できます。
| 区分 | 主な要件 |
|---|---|
| 学識 | 大学・短大・高等専門学校の卒業者で社会科学に属する科目を1科目以上履修/大学3年次以上で62単位以上を取得/司法試験合格者/公認会計士試験の短答式試験合格者 |
| 資格 | 日商簿記検定1級合格者/全経簿記検定上級合格者 |
| 職歴 | 法人・個人事業の会計事務に2年以上従事/銀行・信託・保険等で資金の貸付け・運用の事務に2年以上/税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助事務に2年以上 |
⚠️ 職歴は、勤務先が変わっていても通算で2年以上あれば足ります。経理として働いている社会人なら、この欄で満たしている場合が多いはずです。

年齢・資格取得等の要件がなくなり、税理士試験に挑戦するハードルが下がったと言えます。
理由2:会計科目の知識が、あとの税法科目で効く
法人税法は、財務諸表の数字を出発点にして税額を計算します。会計の側を先に固めておくほうが、あとが軽くなります。
科目免除を使う道もあります。大学院で一定の要件を満たすと、会計科目1科目または税法科目2科目が免除されます。2年間通う時間を試験勉強に回すのとどちらが早いかは人によるので、大学院を活用して税理士資格を取得する秘訣で費用と時間を見比べてから決めてください。

2年間大学院に通うか、その時間を試験勉強に回すか、費用や時間等、検討が必要です。
なお、公認会計士試験と迷っている場合は公認会計士と税理士、あなたに合うのは?で違いを整理しています。
数字で見ておく:1年でどれくらいの人が受かるのか
合格基準は各科目とも満点の60パーセントです(国税庁)。ただし実際には、周りとの比較で決まる相対評価に近い動き方をします。
直近3年の受験者数と合格者数は次のとおりです。
| 年度 | 受験者数 | 5科目到達者 | 一部科目合格者 | 合格者計 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 令和7年度(第75回) | 36,320名 | 527名 | 7,320名 | 7,847名 | 21.6% |
| 令和6年度(第74回) | 34,757名 | 578名 | 5,184名 | 5,762名 | 16.6% |
| 令和5年度(第73回) | 32,893名 | 600名 | 6,525名 | 7,125名 | 21.7% |
読み方を2つだけ。
- 「合格者」の大半は一部科目合格です。 5科目に到達する人は、3万人以上が受けて年500〜600人しかいません
- 逆に言えば、毎年5,000〜7,000人が「1科目受かった」状態になっています。 社会人が現実的に見るべきなのは、5科目の総量ではなく今年の1科目です
社会人の1年は、こう動く
税理士試験は年に1度です。動く時期が決まっているので、逆算しやすいのは社会人にとって数少ない有利な点です。
令和8年度(第76回)の日程は次のとおりでした。
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| 受験申込受付 | 令和8年4月20日(月)〜5月8日(金) |
| 試験日 | 令和8年8月4日(火)〜8月6日(木) |
| 合格発表予定日 | 令和8年11月27日(金) |
受験手数料は申込科目数で決まります。
| 申込科目数 | 1科目 | 2科目 | 3科目 | 4科目 | 5科目 |
|---|---|---|---|---|---|
| 受験手数料 | 4,000円 | 5,500円 | 7,000円 | 8,500円 | 10,000円 |
⚠️ 第76回から、申込みと結果通知の確認をオンラインでできるWEB申請が始まりました(手数料の納付は除く)。従来の郵送も引き続き使えます。
簿財を同時に受けると、1日で2科目を続けて受けることになる
ここは社会人が見落としやすいところです。第76回の時間割では、簿記論が9:00〜11:00、財務諸表論が12:30〜14:30。同じ日です。各科目2時間で、間は1時間半しかありません。
僕の場合、簿記論でペース配分を誤りました。前半に時間を使いすぎて、途中で気力が切れ、第3問はほとんど解けないまま終わりました。そのうえで午後の財務諸表論です。理論と計算を半々でいくつもりが、実際は理論20分・計算100分になり、それでも終わりませんでした。
2科目同時は「勉強量が2倍」ではなく、「本番の当日に体力勝負が1回増える」ということでもあります。 直前期の答練は、できれば同じ時間帯で2科目続けて解く日を作っておくと、当日の落差が小さくなります。
通信講座は、社会人の制約から逆算して選ぶ
独学が不可能とは言いませんが、税法科目は法改正が毎年あり、最新の情報を自力で追う手間がかかります。社会人が使える時間を考えると、そこは外注したほうが早い部分です。
通信講座には向き不向きがあります。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 自分のペースで学習できる | 自己管理が要る |
| 場所と時間を選ばない | 質問の回答に時間がかかる場合がある |
| 通学より費用を抑えやすい | 学習仲間ができにくい |
| スキマ時間の教材が用意されている | モチベーションの維持が難しい場合がある |
選ぶときに見るのは、「机に向かえない時間に何ができる教材か」の1点で足ります。この記事の前半で書いたとおり、社会人が削られるのはインプットではなくアウトプットのほうなので、アウトプット教材(答練・総合問題)が十分にあるかもあわせて見てください。

忙しい社会人には通信講座をおすすめします。特にスタディングが一押しです。スキマ時間の活用に最適だからです。
簿財の同時学習で効率的!
講座の中身と使い方はスタディング活用法:税理士試験簿財科目合格のコツにまとめています。
実務経験は、合格を待たなくていい
税理士になるには、試験の合格に加えて税務または会計に関する実務経験が2年以上必要です。
見落とされやすいのですが、この2年は合格前に積んだ期間も算入できます。企業の経理・財務部門での勤務も対象です。つまり、すでに経理で働いている社会人は、勉強と並行して要件を満たしていけるということになります。

基礎知識があった上で実務を経験すると、より気づきが多くなります。
科目合格の段階で会計事務所へ移る道もあります。その場合の進め方はMS-Japan利用ガイド:経理転職のステップ別解説を参照してください。
まとめ
- 社会人が足りなくなるのは時間の総量ではなく、机に向かってペンを持つ時間
- スキマ時間で積み上がるのはインプットだけ。下書きの練習はスキマ時間では1ミリも進まない
- 高速周回は基礎期には効くが、直前期に持ち込むと初見の問題で手が止まる
- 入口は簿記論・財務諸表論。この2科目だけは受験資格が要らない(令和5年度から)
- 5科目到達者は年500〜600人だが、一部科目合格は毎年5,000〜7,000人。見るべきは今年の1科目
- 簿財同時受験は同じ日に2科目連続。当日の体力配分も練習しておく
僕自身はまだ受かっていません。この記事は「こうすれば受かる」ではなく、同じ形でつまずかないための記録として書いています。次に受ける人が、下書きの練習を後回しにしないことだけでも持ち帰ってもらえれば十分です。
まずは無料講座で中身を見る
よくある質問(FAQ)
Q. 受験にかかる費用はいくらですか?
A. 受験手数料は申込科目数で決まります。1科目4,000円、2科目5,500円、3科目7,000円、4科目8,500円、5科目10,000円です(国税庁)。⚠️ 納付した手数料は、受験しなかった場合でも還付されません。
これとは別に教材費や講座の受講料がかかります。金額は各社で幅があるので、公式の料金ページで確認してください。
Q. 年齢制限はありますか?
A. ありません。 令和5年度からは、会計科目については受験資格の制限もなくなっているので、簿記論・財務諸表論は誰でも受験できます。税法科目のほうは学識・資格・職歴のいずれかが必要です。
Q. 独学で合格できますか?
A. 不可能ではありませんが、税法科目は法改正が毎年あるため、最新情報を自力で追い続ける負担が大きいのが実際のところです。
会計科目(簿記論・財務諸表論)については、日商簿記1級レベルの土台がある人なら独学の余地があります。ただし答練にあたるアウトプット教材は、独学でも別途用意してください。ここが無いまま本番に行くと、僕と同じ形で手が止まります。
Q. 社会人は何科目から始めるべきですか?
A. 1科目からで問題ありません。 科目合格制なので、一度に5科目を受ける必要はありません(国税庁)。
ただし簿記論と財務諸表論は範囲が重なる部分があるため、2科目同時に進める人も多くいます。その場合は、本番が同じ日に2科目連続になる点だけ計算に入れておいてください。