経理カーストの正体は役職ではない|18年見てきた担当業務の序列

この記事には広告を含む場合があります。

経理カーストの正体は役職ではない|18年見てきた担当業務の序列

同じ経理部にいるのに、決算のいちばん重い部分は毎年決まった人が締めていて、自分のところには請求書と経費精算しか回ってこない。会議で数字を聞かれるのもいつも別の人。そんな位置の違いを感じたことはないでしょうか。

これは能力の差ではなく、担当している業務の違いです。経理部には、役職とは別に「どの業務を持っているか」で決まる序列があります。役職は年に一度しか動きませんが、担当は数年で入れ替わるので、いま下に感じている位置には動かせる余地があります。

僕は経理歴18年です。大手メーカーで原価計算を10年、収支管理を3年やったあと、国内子会社の税務申告と経理体制づくりを担当し、いまは海外子会社の月次業績を日本側から見ています。入社3年目には後輩に帳票整理を任せて「なんでこんな雑用を」と言われたこともあります。

この記事では経理カーストを「担当している業務」として整理し直します。読み終えると、自分がいまどの層にいて、次に何を取りにいけばいいかが1つ決まります。

先に結論を書きます。経理カーストを決めているのは役職ではなく、担当業務です。そして担当は、席が空いたときに動きます。

経理カーストの正体は、役職ではなく担当している業務です

経理部の階層のイメージ

経理カーストという言葉は、経理部長や課長といった役職の上下を指して使われることが多いようです。ただ、実際に部の中にいて感じる序列は、役職の話とはずれています。同じ「担当者」という肩書きの人どうしでも、扱われ方がはっきり違うからです。

僕が見てきた範囲では、その差は担当している業務から来ていました。決算を締める人と、伝票を処理する人。この2人は同じ年次で同じ肩書きでも、部の中での聞かれ方が違います。数字の根拠を尋ねられるのは前者で、後者には処理の進み具合が尋ねられます。役職はそのあとから追いついてくる結果であって、序列の原因ではありません。

この見方を採ると、話が一段だけ具体的になります。役職で説明してしまうと「課長になるまで自分の位置は変わらない」で終わってしまい、読者にできることが残りません。担当業務で説明すれば、次の異動や引き継ぎで動く余地が見えます。

もう1つ、担当で見る利点があります。役職と違って、担当は自分から取りにいけることです。隣の席の業務を1つ引き取るのは、昇進の順番待ちよりずっと短い時間で起こります。

担当業務でできる4つの層

経理部の役職と役割

担当業務を序列の順に並べると、僕のいた部署ではおおむね次の4つの層になっていました。会社によって名前も区切り方も違うので、あくまで1つの例として見てください。

代表的な担当 止まると困る相手 期限を決めている人
締める層月次・年次決算、連結、開示株主、銀行、監査法人社外
制度の層税務申告、監査対応、会計方針の判断税務署、監査法人、親会社社外
分析の層原価計算、収支管理、予算事業部門、経営層社内(経営)
流す層伝票入力、経費精算、支払、売掛買掛の管理取引先、社員社内(現場)

上に行くほど偉い、という話ではありません。並びを決めているのは、その業務が止まったときに困る相手が社内にいるか社外にいるかです。決算と税務申告は、期限を会社の外の人が決めています。動かせません。経費精算の締め日は、社内の調整で1日ずらすことができます。この違いが、そのまま「代わりがきかない度合い」として部の中に出てきます。

だから、上の層の担当は少数の人に固定されやすくなります。任せる側からすれば、期限を落とせない業務ほど、前の年もやった人に頼むのが安全だからです。そして固定されるほど、その人だけが手順を知っている状態になり、翌年もその人に回ります。序列が動きにくいのは、誰かが意地悪をしているからではなく、この繰り返しが効いているためです。

クロマル
クロマル

どの層が偉いかという話ではなく、期限を誰が決めているかで並んでいます。

なお、分析の層にいる原価計算がどんな仕事なのかは、原価計算の仕事内容で詳しく書きました。層ごとの年収の差が気になる方は、経理の平均年収を先に読んでみてください。

なぜ担当で序列ができるのか

序列を作っているのは、業務そのものが持っている外向きの期限です。個人の優劣ではありません。ここを取り違えると、自分の評価が低いのだと思い込んでしまいます。

分かりやすかったのは、僕が原価計算を担当していたときの出来事です。会社が買収に関する調査を受けることになり、在庫の中身を確かめるために、本社の人が何日もかけて工場へ来ました。相手をしていたのは、たまたま在庫の数字を持っていた僕です。能力を見込まれたのではなく、その数字の担当だったから外から人が来ました。逆に言えば、担当していなければ、その場に呼ばれることもありませんでした。

外から人が来る業務を持っていると、部の中での位置は自然に上がります。他部門や社外と話した内容を持ち帰るのはその人だけなので、情報が集まるからです。情報が集まると、また声がかかります。序列の正体は、この情報の入り口をどれだけ持っているかだと考えると、説明がつきます。

ここで大事なのは、入り口を持っているかどうかは配置の問題だという点です。経験や資格が足りないから声がかからないのではなく、その業務を持っていないから声がかからない。順番が逆です。

経理カーストの構造

「雑用」に見える担当ほど、経理の全体像が見える

入社3年目、異動先に後輩が来ました。1年間は販売店研修をしていたので、経理としては実質の新人です。僕がその人に最初に任せたのは、紙の帳票の整理でした。当時は紙が多く、原価計算の結果を機種ごとにまとめた帳票や、製品在庫の一覧表が毎月たまっていきます。

しばらくして、こう言われました。

なんでこんな雑用を僕はやらなきゃいけないんですか

僕としては、雑用のつもりではありませんでした。帳票として残るということは、その数字が何かしら重要だということです。経理がどんな数字を扱っている部署なのかを、まず紙の束から知ってほしいと思っていました。保管が必要な帳票なので誰かがやらなければならない、という必要性と、この意図の両方を伝えています。それでも、いまいち腑に落ちていない様子でした。

いま振り返ると、伝わらなかったのは僕の説明の下手さもあったと思います。ただ、言いたかったことは変わっていません。流す層の担当は、扱う数字の種類がいちばん多い場所です。一枚一枚は軽くても、会社のどこにどんな数字があるのかを最初に覚えられるのは、この位置にいる人だけです。

締める層の人は、決算に必要な数字しか見ません。制度の層の人は、申告や監査で問われる数字しか見ません。範囲が狭いかわりに深い、という形になります。全体を薄く広く見られるのは、実は下の層です。

クロマル
クロマル

いま思えば、僕自身も同じ帳票の束から経理を覚えました。

だから僕は、いまその位置にいる人に「早く抜け出したい」とだけ思ってほしくないと考えています。抜け出すのは正しいのですが、抜けた後に効いてくるのは、そこで覚えた数字の置き場所のほうです。

担当が変わると、同じ言葉に求められる細かさが変わる

層が変わると仕事が増える、という表現は少し違います。正確には、同じ言葉に求められる細かさが変わります。

僕の場合は、消費税がそうでした。原価計算を担当していたころ、経費の仕訳を切るときの消費税の認識は「課税か、それ以外か」で足りていました。それで日々の処理は回っていたからです。ところが子会社の管理を任され、自分で仕訳を切って申告につなげる立場になると、この区分では足りません。非課税と不課税の違いを分けないと、申告の数字が組めないからです。同じ「消費税」という言葉でも、担当によって必要な解像度がまるで違いました。

分析の層へ移ったときにも同じことが起きました。原価計算から収支管理のグループへ移ったのですが、そこは原価計算以上にExcelを使う部署で、正直に言えば構えました。手が遅いと言われ続けていた時期でもあります。助かったのは、その前にビジネス会計検定2級を勉強していたことでした。流動比率や固定比率といった分析の用語を一度通していたので、社内固有の言い回しはともかく、指標の話にはついていけました。

ここから言えることは1つです。層を上がる前に、その層で使う言葉だけでも通しておくと、異動した最初の月に沈まずに済みます。資格の勉強がいちばん安く済む方法だと思っているのは、この用語の先取りができるからです。

担当は席が空いたときに変わる。動かす方法は3つ

経理のキャリアの分かれ道

担当が変わるきっかけは、たいてい席が空くことです。誰かが異動する、辞める、産休に入る、業務が増えて分ける。そのときに、誰に渡すかが決まります。自分でできるのは、そのときに名前が挙がる状態を作っておくことだけです。

やり方は3つあると考えています。

1つ目は、上の層で使う言葉を先に通しておくことです。前の節で書いた消費税や分析指標の話がこれにあたります。渡す側からすると、用語が通じる人に渡すほうが手間が少ないからです。

2つ目は、いまの担当の隣を1つ引き取ることです。自分の業務の前工程か後工程を、頼まれる前に1つ覚えておく。担当が丸ごと変わるより、境界を1つずらすほうがはるかに早く起きます。

3つ目は、社外の相手がいる業務に手を挙げることです。監査法人への提出資料、親会社への報告、税理士への受け渡し。前の節で書いたとおり、外から人が来る業務は情報の入り口になります。

ただし、期待しすぎないほうがいい点も書いておきます。資格を取っても、翌月に担当が変わることはありません。僕が税法能力検定の1級(法人税法・消費税法)を取ったのは原価計算の担当だったころで、それが効いたのは9年後、子会社の税務申告を任されたときでした。取ってすぐ何かが起きたわけではありません。

もっと正直に書くと、簿記1級の効果を実感したのは就職活動のときだけです。面接では「すごいね」と言われましたが、社内で担当が動いた実感はありませんでした。それでも取っておいてよかったと思うのは、9年後に席が空いたときに、名前を挙げてもらえる材料になっていたからです。

どの資格から手を付けるかは経理資格の優先順位にまとめました。担当ではなくキャリアそのものの道筋を考えたい方は、経理のキャリアプランのほうが近いはずです。

経理部の中にも「担当外です」の線がある

序列を固定しているものが、もう1つあります。部の中に引かれた担当の線です。

僕のいた経理部には「それは別のグループの担当なので分かりません」という答え方がありました。中にいたときは当たり前だと思っていました。しかし部を出て外から見ると、これは他部門の人が経理に感じている壁と同じものです。他部門に「経理はめんどくさい」と思われるより前に、僕たちは隣の席との間に同じ線を引いていました。

この線は、序列を動きにくくする側に働きます。線の内側にいるかぎり、覚えられるのはその担当の数字だけだからです。逆に言えば、線を1本またぐだけで扱いが変わります。隣のグループの締め切りと、そこが何に困っているかを知っている人は、席が空いたときに名前が挙がります。

もう1つ、中途で入ってくる人の受け入れについても書いておきます。僕のいた部署では、転職者の指導担当が正式に決まらないことが珍しくありませんでした。「教えてあげてね」とさらっと頼まれて終わりです。実務者が足りないので、そこに人を割く余裕がなかったのだと思います。結果として、入ったばかりの人には、誰に何を聞けばいいのか分からない時間が生まれます。僕は手持ち無沙汰にしている人を見つけたら自分から声をかけて、「これはあの人に聞くといいですよ」と伝えるようにしていました。

もしいまあなたが経理部に入ったばかりで、誰に聞けばいいか分からないまま座っているなら、それは能力の問題でも歓迎されていないからでもありません。指導担当が決まっていないだけの可能性が高いので、聞く相手を業務ごとに自分で決めてしまうほうが早いです。何を身につけると動きやすくなるかは、経理に必要なスキルにまとめてあります。

よくある質問

Q. 経理カーストは実在する制度ですか

制度ではありません。就業規則にも組織図にも出てこない呼び名です。ただ、担当業務の割り振りと、会議で誰に数字が尋ねられるかには、はっきり表れます。

Q. 資格を取れば担当は変わりますか

すぐには変わりません。僕の場合、税法能力検定1級を取ってから実際に税務の担当になるまで9年かかりました。資格は席が空いたときの材料であって、席を空ける道具ではないと考えています。

Q. 流す層の担当のままだと、転職で不利になりますか

職務経歴書に書けるのは担当した業務なので、経験の幅としては不利に働きます。ただ、日次処理を回した人でないと分からない数字の置き場所は確実にあるので、そこを言葉にできるかどうかで印象は変わります。書き方は経理のキャリアプランで触れました。

Q. 上の層に行くほど、残業は増えますか

僕の見てきた範囲では、時間そのものより逃げ場のなさが変わりました。締める層と制度の層は期限を社外が決めているので、繁忙期に「来週に回す」という選択が取れません。

Q. 経理部内の序列は、会社を変えても同じですか

層の並び方は似ますが、どの層に人が足りていないかは会社ごとに違います。いまの会社で埋まっている層が、別の会社では空いていることがあります。経理という仕事自体の先行きが気になる方は、経理の将来性も読んでみてください。

まとめ: 経理カーストは担当業務で決まり、担当は動かせる

経理カーストの正体は、役職ではなく担当している業務です。この記事で書いたことを、もう一度並べます。

  • 序列を決めているのは、その業務が止まったときに困る相手が社内にいるか社外にいるかです
  • 上の層の担当が固定されやすいのは、期限を落とせない業務ほど前の年と同じ人に回るからです
  • 流す層は扱う数字の種類がいちばん多く、会社のどこに何があるかを最初に覚えられる位置です
  • 層が変わると仕事が増えるのではなく、同じ言葉に求められる細かさが変わります
  • 担当が動くのは席が空いたときなので、そのときに名前が挙がる状態を先に作っておきます

18年やってきて思うのは、位置は変わるということです。僕は原価計算しか知らない時期が10年ありましたが、そこで取った資格が9年後に効き、いまは経理部の外から数字を見ています。いま下に感じている位置も、担当が1つ動けば見え方が変わります。

追伸です。

自分がどの道を選ぶかを先に決めたい方は、経理のキャリアプランをどうぞ。層ごとの年収の差を数字で知りたい方は経理の平均年収、次に取る資格を1つ決めたい方は経理資格の優先順位が近いはずです。