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テキストを買って、机に向かって、合格して。それでも仕事が変わった実感がないままだと、この勉強は何だったのだろうと思います。
僕が資格を取り始めた動機は、前向きなものではありませんでした。自分に自信がなく、就職できるかも不安で、自分には能力がないと感じていたからです。経理として働き始めてからも、業務で教えてもらえないから勉強した、というのが正直なところでした。
経理歴18年、日商簿記1級・法人税法能力検定1級・消費税法能力検定1級・ビジネス会計検定2級・FP2級を持っています。18年ぶんの取得歴を並べ直して分かったのは、効いた資格はほぼ全部、取ってから数年後に、まったく別の担当になってから効いたということでした。
この記事で書くのは、次のことです。
- 効いた資格と効かなかった資格を、実名と取得年で分けた結果
- 「その場で効いた」例外が2つだけあり、そこに共通点があったこと
- 取る前に判断できることと、どうやっても判断できないこと
読み終えると、いま迷っている資格について「これは今の自分に効くのか、数年後に賭けるのか」を自分で切り分けられます。先に結論を書くと、資格は「効くか効かないか」の話ではなく「効くまでの時間差」の話です。
資格を取った動機は、自信のなさでした
僕が会計の勉強を始めた理由は、将来設計ではありません。自分に能力がないと感じていたことです。
大学時代は公認会計士を目指して専門学校に通っていました。日商簿記2級に受かったのが2003年6月、大学2年のときです。その後の就職活動では、エントリーシートは通るのに一次面接で落ち続け、30社ほど受けたところで諦めて大学院に進みました。
自信のなさを埋めるために資格を取り、埋まらないからまた次を取る。当時の僕がやっていたのはそれでした。日商簿記1級に合格したのは大学院在学中の2007年6月です。
入社してからも、動機の出どころは同じでした。ただし中身は少し変わります。学生のころは「自分に能力がないと感じるから」でしたが、入社後は「業務で教えてもらえないから」に変わりました。
配属直後の職場では、質問をしても答えが返ってこないことがありました。悪意があったというより、経理の仕事は担当ごとに手順が分かれていて、聞かれる側にも説明の型がなかったのだと思います。既存の仕訳の流れをまとめた資料を寮に持ち帰って読んだのは、そういう理由でした。
不安を動機にするのは、格好のいい話ではありません。ただ、あとから振り返ると、自分の中から出てきた動機だったという一点だけは効いています。この記事の最後に書きますが、外から来た動機で取った資格は、僕の場合ひとつも残りませんでした。
簿記1級は、入社後1年以上使いませんでした
簿記1級を持って経理に配属されても、その知識を使う場面は1年以上ありませんでした。
最初につまずいたのは会計ではなく、基幹システムの勘定科目コードです。桁数の多いコードに慣れるまで時間がかかり、Excelの集計にも悪戦苦闘していて、正直それどころではありませんでした。
これは「簿記が役に立たない」という話ではないと思っています。順番の問題です。社内の専門用語とシステムという共通言語を先に覚えないと、経理部の中ですら会話が成り立ちません。簿記の知識は、その共通言語を覚えたあとに効き始めます。
実際、資格が効いてきたのは原価計算の決算に関わるようになってからでした。仕訳の背景を自分で推測できたのは、独学で簿記をやっていたからです。作業だけを教わっていたら、なぜその処理をするのかは分からないままだったはずです。
だから、入社直後に「資格が役に立たない」と感じるのは早すぎます。役に立つ時期がまだ来ていないだけ、という可能性が高い。
効いた資格は、数年後に効きました
18年ぶんを並べて分かったのは、効いた資格のほとんどが「取った当時の担当ではまったく使わなかった」ものだということです。
| 資格 | 取得 | 取ったときの担当 | 効いた場面 |
|---|---|---|---|
| 日商簿記1級 | 2007年6月 | 学生 | 入社数年後、原価計算の決算 |
| 初級システムアドミニストレータ | 2006年10月 | 学生 | 10年以上あとに、AIの使い方 |
| 法人税法能力検定2級・消費税法能力検定2級 | 2011年 | 原価計算 | 2021年、子会社の税務申告 |
| 法人税法能力検定1級 | 2012年10月 | 原価計算 | 2021年、子会社の税務申告 |
| ビジネス会計検定2級 | 2012年9月 | 原価計算 | 2018年、収支管理での指標分析 |
| BATIC(国際会計検定) | 2007年12月 | 学生 | 16年後、海外子会社の英文PLを読む |
税法能力検定を取った2011年から2012年にかけて、僕は原価計算の担当でした。法人税にも消費税にも一切触っていません。それが効いたのは9年後、国内子会社の管理担当になってからです。
その子会社は設立して間もなく、経理の体制を一から作る必要がありました。税務のやり方を教えてくれる人が社内にいたわけでもありません。同じ時期にもう1社を担当していて、そちらは本社が申告を取りまとめてくれていました。同じ税務でも、後ろ盾があるかどうかで難易度はまったく違います。
そこで手元にあったのが、9年前に取った検定の知識でした。足りない部分は消費税法能力検定1級を独学で足しています(2021年2月)。消費税の申告実務は、法人税に比べて市販の解説書がほとんど出ていません。実務書が無いぶん、検定のテキストと過去問がほぼ唯一の参照資料になりました。
ビジネス会計検定2級も同じ形です。受けた当時は「簿記1級を持っているなら要らない資格かな」と思いながら勉強していました。効いたのは収支管理のグループに異動してからで、流動比率や固定比率といった分析の指標を思い出しながら仕事についていけたのは、この検定のおかげです。簿記は財務諸表を作る側、ビジネス会計検定は読む側で、必要になる頭の使い方が違いました。
間が16年空いたのがBATICです。英文会計の検定で、大学院時代に825点を取りました。当時は米国公認会計士を目指す前段のつもりで受けていて、実務で使う場面はその後まったくありません。それが効いているのはいまの担当です。海外子会社の英文の損益計算書を読むとき、勘定科目の英語表記と、日本の様式との並びの違いにいちいち引っかからずに済んでいます。TOEICのスコアと同じで、英語そのものより、英語で会計を読む形に一度慣れておいたことが残りました。
一番間が空いたのは初級システムアドミニストレータです。大学時代にインターンでシステム開発を少し触り、成績は良くなく「これを仕事にするのは無理だ」と思いました。それでも知識として知っておけば何かで役立つかもしれないと考えて取った資格が、10年以上眠ったあとにAIの使い方で起きました。処理がループしていそうだとか、止まらなくなっていそうだといった見当がつくのは、あのときの知識が残っていたからです。
6件並べて共通しているのは、どれも取った時点では「これが効く」とまったく思っていなかったことです。
その場で効いたのは2つだけでした
例外はFPとMOSです。この2つだけは、取ったその場で効きました。
FPを取ったのは子会社管理の担当になったときです。税法も不動産も社会保険も分からないのに業務は来ます。1つずつ深く勉強していたら期限が来てしまって仕事が成り立たない、という状況でした。だから広く浅くまとめて拾える資格を選びました。
効き方は地味です。出金の記録を見て「これは公租公課の税金だな」と見当がつく。給料から天引きされた社会保険料を、預り金で処理して翌月の支払いで取り崩す、という流れが分かる。その業務をやっている人には基本中の基本だと思いますが、僕はFPの勉強で初めて知りました。
FPの価値は知識そのものより、分からないことを調べるときの取っかかりだったと思っています。経理でFPが効く場面と効かない場面はFPは役に立たない?で切り分けました。
MOSも同じです。手が遅いと言われ続けていて、Excel漬けの部署にいた時期に取りました。学んだその週から使える種類の資格です。
この2つと、さきほどの6件の違いははっきりしています。取る時点で、目の前に困りごとがあったかどうかです。
いま困っていることがあるなら、それに対応する資格は今すぐ効きます。困りごとが無い状態で取る資格は、効くとしても数年後で、それがいつ来るかは選べません。

残らなかった資格には共通点があります
効かなかった資格もあります。並べてみると、残らなかった理由が2通りに分かれました。
ひとつは、動機を自分で作っていない資格です。会社で取得を推奨されていた資格が2件あり、どちらも合格しましたが、知識は今ほとんど残っていません。仕事で使う場面が一度もなかったからです。
同じ形が三級知的財産管理技能士にもあります。2009年4月に合格しました。この資格については書きにくい事実があって、戸棚を整理していて合格証書が出てくるまで、受かったこと自体を忘れていました。取得年も、資格の正式名称も、記憶と食い違っていたくらいです。
もうひとつは、やり方の側で失敗したものです。米国公認会計士(USCPA)は2007年に4科目を受けて全滅しました。勉強法を確立できないまま修士論文と並行させてしまい、どの科目も箸にも棒にもかからない点数でした。
前者の2件に共通しているのは、自分で動機を作っていないことでした。会社が推奨していたから、履歴書に書けそうだから。そういう理由で取った資格は、僕の場合は合格しても残りませんでした。
だから僕は、勧められた資格をそのまま受けることはしなくなりました。勧められること自体は悪くありません。ただ、勧めてくれた人の中にある必要性は、自分の中の必要性とは別物です。

資格の価値は合格ではなく体系です
ここまで読むと「では取るだけ無駄なのでは」と思われるかもしれません。僕はそうは考えていません。
資格の価値は、合格そのものではなく、体系が手に入ることだと思っています。勉強の仕方が分かりにくい分野でも、専門家が体系化した知識を網羅的に詰め込んでくれる。これは効くかどうかとは無関係に、勉強した時点で手に入ります。
後で効くかどうかは賭けですが、体系が手に入ることは賭けではありません。ここが分かれ目です。
実務でつまずくとき、多くの場合は「知らないことがある」のではなく「何を知らないのかが分からない」状態になっています。体系を一度通しておくと、この状態から抜けやすくなります。消費税の申告で言えば、課税か課税以外かという粗い理解しか持っていなかった僕が、非課税と不課税の違いを意識して仕訳を切れるようになったのがそれでした。
埋まったものと、埋まらなかったもの
正直に書いておきたいことがあります。資格を取っても、埋まらなかったものがあります。
埋まったほうから書きます。簿記1級とTOEICのスコアは、就職活動でそのまま結果になりました。上場企業2社から内定をもらえたのは、この2つがあったからだと今でも思っています。面接で30社落ちていた自分が、ここだけは資格で押し返せました。
一方で、公認会計士を取れなかったという負い目は、そのあとどれだけ資格を取っても埋まりませんでした。簿記1級に受かっても、税法能力検定を2つ1級まで取っても、埋まる種類のものではなかった。むしろ2009年は1年に5件も取っていて、いま振り返るとあれは埋め合わせでした。
だから「資格を取れば自信がつきます」とは書けません。僕の実感では、自信は資格ではなく、仕事が回った経験のほうから来ています。9年前に取った検定の知識で、教えてくれる人がいない場所の税務をなんとか回した。あの経験が自信になったのであって、合格証書がなったわけではありません。
ただし、その経験は資格が無ければ起きていません。資格は自信そのものにはならないけれど、自信になる経験の入場券にはなります。
資格を取るか迷っている人へ
18年ぶん並べ直して、取る前に判断できることは3つありました。
1つ目。いま目の前に困りごとがあるなら、その資格は今すぐ効きます。僕のFPとMOSがこれでした。この場合は迷わなくていいと思います。
2つ目。困りごとが無いなら、効くのは数年後で、いつかは選べません。それでも取る価値があるのは、体系が手に入るからです。効く時期を当てにいくのではなく、体系を先に持っておくと考えたほうが、期待の置き方としては正確です。
3つ目。動機が自分の中にない資格は、受かっても残りません。人に勧められたという理由だけで受けるなら、その勧めを自分の必要性に翻訳できるかを先に確かめてください。
そして、どうやっても判断できないことが1つあります。取った資格がいつ、どの担当で効くかです。僕が並べた6件は全部、取った時点では効くと思っていませんでした。ここは誰にも当てられません。
もし、いま自信が無くて資格を考えているなら、その動機のままで大丈夫だと思います。僕もそこから始めました。ただ、資格が自信を作ってくれるとは思わないでください。作ってくれるのは、その資格を持って仕事が回った日のほうです。
よくある質問
Q. 経理の資格は意味がないと言われますが、本当ですか。
A. 取った直後に効くかどうかで見ると、意味がないように見える場面は実際にあります。僕自身、簿記1級を持って入社して1年以上使いませんでした。ただ効いたのは数年後で、そのときには確かに効いています。判断を早く出しすぎない、というのが僕の答えです。
Q. 何から取ればいいか分かりません。
A. 担当業務によって順番が変わります。未経験の方は簿記3級とExcelから始めるのが素直です。担当別の取得順は経理資格の優先順位にまとめました。
Q. 会社に勧められた資格は取らないほうがいいですか。
A. 取ること自体は問題ありません。僕の場合は、勧められただけで受けた資格が2件とも残りませんでした。受ける前に「自分の業務のどこで使うか」を1つ書き出せるなら取る価値があります。書き出せないなら、後回しでいいと思います。
Q. 取った資格が効かないまま何年も経っています。無駄でしたか。
A. 僕は9年、長いものでは10年以上眠っていた資格があります。眠っている間は無駄に見えますが、担当が変わった瞬間に引き出しから出てきました。効かないのは資格の問題ではなく、まだその担当になっていないだけ、という場合があります。
まとめ
- 僕が資格を取った動機は自信のなさで、前向きなものではありませんでした
- 効いた資格の多くは、取ってから数年後に、まったく別の担当で効いています
- その場で効いたのはFPとMOSの2つだけで、どちらも取る時点で目の前に困りごとがありました
- 動機が自分の中にない資格は、合格しても残りませんでした
- 資格は「効くか効かないか」ではなく「効くまでの時間差」の話です
いま迷っている資格があるなら、まず「今の自分に困りごとがあるか」を確かめてください。あるなら今すぐ効きます。無いなら、体系が手に入ることのほうを目的にして選ぶと、後悔しにくくなります。
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