ベテラン経理が業務内容を紹介:原価計算

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ベテラン経理が業務内容を紹介:原価計算

原価計算、と聞くとみなさんはどんなイメージがあるでしょうか。僕自身の原価計算のイメージは以下のようなものでした。

  • 1日デスクに座ってPCで計算している
  • 伝票やお金の扱いに厳しい性格の人が多い

しかし実際の所は、イメージと違い、打ち合わせや説明を行う業務が多くありました。

  • 部内や他部門の方等、打ち合わせが1日中続く日もある
  • お金の扱いには厳しいけれど、性格ではなく会社から求められる役割の為だった
  • 月末、月初、決算でやることが多くて非常に忙しい、Excelをやたらと使う

ここでは、経理を15年以上経験し、原価計算業務も数年従事した僕が、実際のメーカーの原価計算業務を紹介します。原価計算業務は企業によってかなり違いがあることから、あくまで一企業の例ではあります。ただ、読むことで原価計算のイメージがわいてくるようになります。

クロマル
クロマル

原価計算は他部門との連携が必須なので、人とのやり取りが苦でない方が向いています。

目的が明確なやり取りなので、わかりやすく話せる、ことが重要です。

原価計算の業務一覧

原価計算担当の業務を簡単にまとめると、以下の通りです。以下のようなサイクルが半年ごとに行われます。

  • 期初:半期ごとの労経費と原価への配分(財務賃率)算定
  • 月末:原価計算(標準(予定)原価計算)
  • 月初:在庫金額評価および原価の帳簿反映確認
  • 月中:前月の帳簿差額分析、報告資料作成
  • 期末:決算棚卸および原価差額の確定
  • 都度:新機種の原価算定、決裁書の確認

以下では、各業務について、毎月の業務を中心に解説していきます。

原価計算業務の流れ

原価計算と一言でいっても、原価を計算するまでには複数のステップがあります。ここでは僕が働いているメーカーを例に、原価計算の流れを紹介していきます。

以下のような工場の原価計算です。

  • 複数の製品を製造
  • 各製品は複数の部品が組み込まれている精密機器

期初:半期ごとの労経費と原価への配分(賃率)決定

原価計算というと「かかった費用を集計」するイメージをもっていると思います。それは間違いではありませんが、複数の製品を大量に作成している工場では、そういった「実際原価計算」は時間がかかり現実的ではありません。そもそも、薬液やガス等、複数の製品に共通して使用される部品は「どの製品にいくら使ったか」は明確ではありません。

そのため実際は、「予定現価(標準原価)」で各製品の原価を算定し、帳簿に計上することが認められています。監査法人にも、「原価の差額が生産高の1%以内ならば、原価として計上してOK」と承認を得ている会計処理です。

  • 材料 :機種の構成表にあらかじめ使用する量である「員数」を登録し、生産台数をかけて算定
  • 労務費:半期ごとの労経費を見積もり、生産計画に基づいた生産見積時間で割って決める「賃率」で算定

この「賃率」を算定するのが期初の業務です。半期でかかる労経費や生産時間を見積もるのは、各部門から情報を得る必要があるため、部門間での密なコミュニケーションが必要です。

また、さまざまなパターンの案を作成する必要があるため、Excelで素早くわかりやすく資料をまとめる必要があります。

もちろん、原価差額を最小化するべく、材料の員数を常に更新して実際に近づけたり、月次でチェックを行い、必要に応じて「引当」という形で原価に織込む等、対策を行っています。

大きな原価差額が発生する可能性があるのは、例えば以下のような場合です。

  • 製品の良品率(歩留)が悪く、設定した使用量(員数)を大きく超えて材料が使用された。
  • 見積もった労経費予算より実際の発生費用がオーバーした
  • 生産計画が変更になり、当初予定していた生産量より大幅に生産が少なくなった
クロマル
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状況の変化に早い段階で気づける人が、原価計算の「できる人」です。

そのためには常に工場の情報収集と数値の分析が必要です。

月末:原価計算(予定(標準)原価計算)

予定原価は、SAPで行っています。あらかじめ各製品の構成表に、材料の「員数」および労経費の「賃率」をSapに登録していれば、出てきた原価計算結果をチェックするだけで済みます。

ただ、試作品は、まだ製品の構成が確定されていないことからSAPに構成表も登録されておらず、自分でかかった費用を集計して原価を算定する必要があります。

  1. 試作品を作成した部門がかかった費用を集計
  2. 費用に基づき試作品の原価を登録

月初:在庫金額評価および原価の帳簿反映確認

SAPの原価計算結果が帳簿に登録された後は、登録した原価を使用し、在庫金額の評価を行います。

メーカーは在庫管理が非常に重要なため、毎月経理で行って経営層に報告を行っています。

  1. 生産部門から月末の棚卸日段階での在庫数量を報告してもらう
  2. 上記の数量に予定原価を掛けて、在庫金額を算定する
クロマル
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在庫が増えると保管費用もかさむため、経理の在庫評価は経営判断のための重要な指標です。

社内でも注目されています。

月中:前月の差額分析、報告資料作成

予定原価計算において、監査法人から認められている差額は「半期で生産高の1%以内」です。状況の変化を見逃すと、すぐに差額が1%を超えてしまいます。

そのため、各月の帳簿が確定した後、予定原価の差額が生産高の1%以内に収まっているか、差額の確認を行います。差額が1%を超えている場合等は原因を分析し、必要に応じて是正します。

  • 伝票誤り→修正伝票を計上
  • 費用が発生する新たな事象の発生→原価の「引当」を行う

期末:決算棚卸および原価差額の確定

決算手続きは毎月の原価計算手続きに加え、以下の業務が加わります。

  1. 決算棚卸立会
  2. 決算棚卸評価→決算棚卸表作成
  3. 各種決算仕訳入力(各費用の未払計上、引当の洗い替え)
  4. 原価差額確定→売上原価に計上

特に「原価差額確定」の際に、生産高の1%以内に収まっているかは非常に重要です。決算時に慌てないため、毎月の帳簿確定後の差額分析が非常に重要です。

クロマル
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決算時に原価差額が生産高1%に収まらないと発覚した場合、そのままでは決算の監査法人適正意見が得られないため、原因究明および修正で深夜まで続くこともあります。

都度:決裁書の確認、新機種の原価算定

原価計算が期初に決めた賃率の通りになるかは、実際の経費の使用が想定通りとなっている場合です。そのため、決裁書確認を通じた経費の予算管理も原価計算の重要な業務の一つです。決裁書から取引の内容と必要性が読み取れるか、予算の範囲内に収まっているか、という点が主なチェック項目です。

新機種の原価算定は、特に新規の商流が発生する製品の場合、簿記の知識、原価計算の知識を基として一つ一つ答えを出しながら進める業務です。新規の商流の場合は、以下のような点を判断する必要があります。

  • 商流のどの部分でどのような費用が発生するか
  • 費用の情報をどのように入手するか
  • どのようにSAPで原価が正しく計算されるように登録するか
クロマル
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生産部門以外にも営業、調達、工場管理など、多くの関連部門との連携が必要となります。

原価計算業務で活きる経理資格:簿記全般とMOS(Excel)

財務会計の分野である原価計算業務は、簿記の知識が必須ともいえる分野の一つです。ここでは資格の学習でえた知識やスキルが活かせる内容を具体的に説明します。

簿記が原価計算で活かせる理由

商業簿記の知識が原価計算の業務で生かせる場面は多くあります。ただ、可能ならば簿記2級の工業簿記・原価計算まで学習しておければ、判断に迷った時の指針になるはずです。

  • 新規の商流が出てきたときに仕訳として考え、原価計算に反映できる
  • 原価差額が出てきたときに工場簿記の考えかたで差額の特定ができる
  • 監査法人への説明の際も帳簿と原価計算を絡めて説明できる

簿記の学習にはスタディングの通信講座がおすすめです。スタディングの簿記2級講座については、【口コミ有】スタディングで簿記2級に合格!通信講座で初心者でも合格できる方法を解説を参照ください。

MOS(Excel)が原価計算で活かせる理由

Excelのスキルは原価計算だけでなく、経理業務全般のスピードと正確性に直結しますが、特に原価計算で役に立つのは以下のケースです。

  • SAPの原価計算結果が想定通りになっておらず、Excelに落として検証する場合(正確性)
  • 決算処理で必要な数値を大至急算定する必要がある場合(スピード)
  • 各部門に対して情報提供を依頼する際のわかりやすい入力フォーマット作成(明確さ)

MOS資格については、【経理業務に役立つ】MOS通信講座の選び方と学習のコツで解説しています。

原価計算の仕事に向いている人は?

僕が考える「原価計算業務」に向いている方は、以下ができる方です。

  • 新しい取引を理解できるまで確認ができる
  • 部門と経費について粘り強くやり取りできる
  • 差額の原因究明等、必要な際には長時間集中して数値を見続けられる

もちろん、各自に合ったやり方で地道に取り組めば誰でも業務はできるようになります。ただ、以上のような方は間違いなく適性があると思いますので、検討してみてください。

まとめ:原価計算担当は生産活動を数値に反映する経理

この記事では、原価計算業務について紹介してきました。

原価計算は大変な仕事ではありますが、特にメーカーならば工場経理の根幹となる業務です。経理のキャリアップにもつながりますので、もし機会があれば、携わってみるのがおすすめです。