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「原価計算」と聞くと、どんな仕事をイメージするでしょうか。僕自身が担当する前のイメージはこうでした。
- 1日デスクに座ってPCで計算している
- 伝票やお金の扱いに厳しい性格の人が多い
しかし実際は、だいぶ違いました。
- 部内や他部門との打ち合わせが1日中続く日もある
- お金の扱いに厳しいだけでなく、状況に応じた柔軟さも必要
- 月末・月初・決算はやることが多くて非常に忙しく、Excelをずっと使う
この記事では、経理歴18年、メーカーの原価計算業務にも長く従事してきた僕が、実際の原価計算の仕事内容を紹介します。
- 原価計算業務の具体的な流れと、各時期のポイント
- 繁忙期はいつか、どう乗り越えるか
- 原価計算で役立つ資格とその理由
原価計算は他部門との連携が必須なので、人とのやり取りが苦でない方が向いています。目的が明確なやり取りなので、「わかりやすく話せる」ことが重要です。
原価計算の業務一覧(年間サイクル)
原価計算担当の業務をまとめると次のとおりです。このサイクルが半年ごとに回ります。
| 時期 | 業務 |
|---|---|
| 期初 | 半期ごとの労経費と原価への配分(賃率)算定 |
| 月末 | 原価計算(標準(予定)原価計算) |
| 月初 | 在庫金額評価および原価の帳簿反映確認 |
| 月中 | 前月の帳簿差額分析、報告資料作成 |
| 期末 | 決算棚卸および原価差額の確定 |
| 都度 | 新機種の原価算定、決裁書の確認 |
以下、複数の精密機器製品を製造する工場を例に、各業務を解説します。
原価計算業務の流れ
期初: 労経費の配分単価「賃率」を決める
原価計算というと「かかった費用を集計する」イメージだと思います。間違いではありませんが、複数の製品を大量に作る工場では、そうした「実際原価計算」は時間がかかり現実的ではありません。そもそも薬液やガスのように複数製品に共通して使う材料は「どの製品にいくら使ったか」が明確ではないのです。
そのため実務では「予定原価(標準原価)」で各製品の原価を算定し、帳簿に計上します。監査法人にも「原価の差額が生産高の1%以内ならば、原価として計上してOK」と承認を得ている会計処理です。
- 材料費: 機種の構成表に使用量「員数」を登録し、生産台数を掛けて算定
- 労務費: 半期の労経費見積を、生産計画に基づく生産見積時間で割った「賃率」で算定
この1分当たりの単価「賃率」を算定するのが期初の仕事です。半期の労経費や生産時間の見積は各部門から情報を得る必要があり、密なコミュニケーションが必須。さまざまなパターンの案を作るため、Excelで素早くわかりやすく資料をまとめる力も求められます。
賃率確定後も、材料の員数を常に更新して実際に近づけたり、月次チェックで必要に応じて「引当」として原価に織り込んだり、原価差額を最小化する対策を続けます。大きな原価差額が出やすいのは次のようなケースです。
- 製品の良品率(歩留)が悪く、設定した員数を大きく超えて材料が使われた
- 見積もった労経費予算より実際の発生費用がオーバーした
- 生産計画が変更になり、当初予定より生産量が大幅に減った
状況の変化に早い段階で気づける人が、原価計算の「できる人」です。そのためには常に工場の情報収集と数値の分析が必要です。
月末: 標準原価計算の実行とチェック
予定原価の計算はSAPで行います。構成表に員数と賃率を登録済みなら、計算結果をチェックするだけで済みます。
例外は試作品です。構成が確定しておらずSAPに構成表がないため、試作部門にかかった費用を集計してもらい、自分で原価を算定・登録します。
月初: 在庫金額の評価と帳簿反映の確認
SAPの原価計算結果が帳簿に登録された後、その原価で在庫金額を評価します。生産部門から月末棚卸日時点の在庫数量を報告してもらい、数量×予定原価で在庫金額を算定して経営層に報告します。
在庫が増えると保管費用もかさむため、経理の在庫評価は経営判断のための重要な指標です。社内でも注目されています。
月中: 原価差額の分析(生産高1%ルール)
予定原価計算で監査法人から認められている差額は「半期で生産高の1%以内」。状況の変化を見逃すとすぐに超えてしまうため、各月の帳簿確定後に差額が収まっているかを確認し、超えていれば原因を分析して是正します。
- 伝票誤り → 修正伝票を計上
- 費用が発生する新たな事象 → 原価の「引当」を行う
期末: 決算棚卸と原価差額の確定
決算では毎月の手続きに加えて、①決算棚卸立会 ②棚卸評価→決算棚卸表作成 ③各種決算仕訳入力(未払計上・引当の洗い替え) ④原価差額確定→売上原価への計上、が加わります。
決算時に原価差額が生産高1%に収まらないと発覚した場合、そのままでは監査法人の適正意見が得られないため、原因究明と修正で深夜まで続くこともあります。毎月の差額分析が効いてくるのはここです。
都度: 決裁書の確認、新機種の原価算定
賃率どおりの原価になるのは、経費の使用が想定どおりの場合だけ。そのため決裁書確認を通じた経費の予算管理も重要な業務です(取引の内容と必要性が読み取れるか、予算内に収まっているかをチェック)。
新機種の原価算定、特に新規の商流が発生する場合は、簿記と原価計算の知識を基に一つ一つ答えを出しながら進める仕事です。
- 商流のどの部分でどのような費用が発生するか
- 費用の情報をどのように入手するか
- SAPで原価が正しく計算されるようにどう登録するか
生産部門以外にも営業、調達、工場管理など、多くの関連部門との連携が必要となります。
原価計算業務の繁忙期
繁忙期は四半期決算月(3の倍数月)とその翌月
3月決算企業なら、6月・9月・12月・3月の四半期区切りで、通常業務に決算業務が加わり翌月まで続きます。
- 第1四半期: 6月末〜7月中旬
- 第2四半期: 9月末〜10月下旬
- 第3四半期: 12月末〜1月中旬
- 本決算: 3月末〜4月下旬
特に3月決算(本決算)は開示の関係でスケジュールがシビアで、深夜まで残業した時期もありました。
11月・2月は決算準備月
比較的余裕のあるこの時期に、次の決算がスムーズに進むかどうかが決まる準備・改善に取り組みます。
- 前回の決算手順の復習(期間が空くので必須!)
- 前回決算のイレギュラー発生事項の洗い出し・再発有無の確認
- 今回の決算スケジュールの確認・共有
- B/S項目の整理(債権債務・在庫等の資産状況)
- 在庫評価減の発生見込確認(金額影響大)
- 原価差額の分析方法の見直し
- Excelの各種集計フォーマットの整理
原価計算で活きる資格: 簿記とMOS(Excel)
簿記が活きる理由
原価計算は簿記の知識が必須ともいえる分野です。可能なら簿記2級の工業簿記・原価計算まで学習しておくと、判断に迷ったときの指針になります。
- 新規の商流が出てきたときに仕訳として考え、原価計算に反映できる
- 原価差額が出たときに工業簿記の考え方で差額の特定ができる
- 監査法人への説明でも帳簿と原価計算を絡めて説明できる
簿記の学習はスタディングの通信講座を使った合格法で解説しています。
MOS(Excel)が活きる理由
Excelスキルは経理業務全般のスピードと正確性に直結しますが、原価計算で特に効くのは次の場面です。
- SAPの計算結果が想定どおりでなく、Excelに落として検証する場合(正確性)
- 決算処理で必要な数値を大至急算定する場合(スピード)
- 各部門への情報提供依頼で、わかりやすい入力フォーマットを作る場合(明確さ)
MOSの学び方はMOS通信講座の選び方を参考にしてください。
原価計算の仕事に向いている人
僕が考える「原価計算に向いている人」は、次ができる方です。
- 新しい取引を理解できるまで確認ができる
- 部門と経費について粘り強くやり取りできる
- 決算締めや差額の原因究明など、必要な際には長時間集中して数値を見続けられる
もちろん、自分に合ったやり方で地道に取り組めば誰でもできるようになります。当てはまる方は間違いなく適性があるので、ぜひ挑戦を検討してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 原価計算の仕事はきついですか?
四半期決算月とその翌月は忙しく、本決算では深夜対応もあり得ます。一方で11月・2月のような準備月もあり、メリハリのある仕事です。毎月の差額分析を丁寧にやっておくほど、決算期の負荷は下がります。
Q. 標準原価計算とは何ですか?実際の費用と違っていいのですか?
あらかじめ決めた員数(材料使用量)と賃率(労務費単価)で原価を計算する方法です。実際との差額が一定範囲(僕の会社では監査法人と合意した「半期で生産高の1%以内」)に収まっていれば、会計処理として認められます。
Q. 未経験でも原価計算担当になれますか?
なれます。ただし簿記2級の工業簿記・原価計算まで学習しておくと、新規の商流や差額分析で「判断の指針」を持てるため、立ち上がりが格段に速くなります。
まとめ: 原価計算は生産活動を数値に反映する経理
- 原価計算の仕事は賃率算定→月次の標準原価計算→在庫評価→差額分析→決算の半年サイクル
- 肝は原価差額の管理(生産高1%以内)。毎月の分析が決算の平穏を決める
- 繁忙期は四半期決算月+翌月。11月・2月の準備が勝負どころ
- 役立つ資格は簿記(工業簿記まで)とMOS(Excel)
原価計算は大変な仕事ですが、メーカーなら工場経理の根幹です。原価計算を理解することは工場全体の生産活動の理解につながり、経理としてのスキルアップに直結します。機会があればぜひ携わってみてください。
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