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経理業務をこれから行いたいと考える方の中に、今から簿記を学習する価値はあるのか、と疑問に感じている人もいると思います。簿記の学習の必要性について「経理実務ができれば簿記はいらない」「AIの普及で簿記は不要になる」等、否定的な意見を目にすることも珍しくないです。
- 実務経験があれば簿記の知識はいらない?
- 簿記の知識が必要な仕事はAIに置き換わる?
- 簿記資格は経理のキャリアアップに役立たない?
僕自身、学生時代に簿記の学習を始めて以降、「簿記は社会人になったら役に立たない」等、否定的な意見を何度も受けました。
ただ実際、簿記1級を保有した後に経理で15年以上働いた上で、簿記の知識がなかったら対応できなかったと感じることが多くありました。
理由として、実務経験に基づいて定型的な業務ができても、経理には頭の中に基礎知識がないとできない、イレギュラーな事態への対応や、分析および判断を要する業務があるからです。特に、経理の決算業務ではイレギュラーが頻発します。
この記事でわかること
- 「簿記はいらない」と言われる主な理由がいかに誤解であるか
- 簿記知識が、AI時代におけるあなたの市場価値とキャリアアップに不可欠な理由
- 簿記の知識が、真の業務効率化や自動化を実現するためにどれほど重要か
簿記は、単なる資格ではありません。あなたの抱える疑問や不安が解消され、簿記がいかに経理実務において不可欠なスキルであるかが明確にわかるでしょう。
簿記がいらないと言われる主な理由に反論

経理実務者の中には、「簿記はいらない」という意見を耳にして、学習をためらっている方もいるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか?
ここでは、そう言われる主な理由を一つずつ検証し、その誤解を解き明かしていきます。
- 理由①「 簿記知識が必要な業務はAIに取って代わられる」
- 理由② 「簿記の知識は仕事で役にたたない」
- 理由③「簿記はキャリアアップの役にたたない」
- 理由④ 「簿記が必要な仕事は外注できる」
- 理由⑤ 「必要な知識は実務だけで学べる」
これらの理由がいかに簿記の重要性を見過ごしているか、詳しく見ていきましょう。
理由①「 簿記知識が必要な業務はAIに取って代わられる」
近年の技術の進歩により、AIや自動化ツールの出現によって、簿記や会計業務の一部は自動化される可能性があります。しかし、完全に代替されるわけではありません。
たしかに、AI技術はデータの処理や仕訳の自動化において高い精度を持つようになってきました。ただし、AIは複雑な判断や分析が求められる場面ではまだ限定的であり、人間の専門知識や経験が必要とされます。また、法律や規制の変更にも迅速に対応する必要があり、人間の専門家の役割は依然として重要です。
AI技術の進化は目覚ましく、経理業務の一部が自動化されるのは事実です。
しかし、AIが代替するのはあくまで定型的な入力作業や仕訳処理であり、簿記の深い知識が求められる判断業務や戦略立案までは及びません。
例えば、以下のような業務は依然として人間の専門知識が必要です。
- 複雑な会計処理の判断
- 財務諸表の分析と経営への提言
- 税務戦略の立案
- イレギュラーな取引への対応
AIはあくまでツールであり、それを使いこなし、価値を最大化するには、簿記の知識という羅針盤が不可欠なのです。

単純作業しかできない経理だと、AIに置き換えられるかも。
この時に、知識ゼロからAIやネットで調べながら経理業務を行うのは、教本を見ながら車の運転を行うようなもので、周りのスピードについていけず、危険です。
また、ネット上にはうその情報も交じっており、それらを見極める力を持っていないと、簡単に誤った方向に進むこととなります。そのような人材には単純作業しかまかされず、AIによる自動化で真っ先に置き換えられることとなります。
- 単純作業:AIが対応して自動化
- 分析/判断:人間が専門知識を持って対応
AIによる自動化の進展は、確かに簿記業務に影響を与えますが、簿記の基礎知識や専門性は依然として重要です。AIによる単純作業の自動化と人間の判断の組み合わせにより、より効率的な業務遂行が期待されます。
理由② 「簿記の知識は仕事で役にたたない」
「簿記の知識は実務で使わない」という意見も聞かれますが、これは簿記の本質を理解していないからかもしれません。
簿記は単なる記録の技術ではなく、会社の経済活動を数値で表現し、その状況を把握するための共通言語です。
簿記の知識があれば、以下のようなメリットがあります。
- 取引の意味を正確に理解できる
- 勘定科目の選択に迷いがなくなる
- 財務諸表が読めるようになる
- 経営状況を数字で説明できるようになる
簿記は、経理業務の土台となる知識であり、実務のあらゆる場面でその真価を発揮します。

簿記の知識は経理にとっての共通言語です。経理部内の会話でも共通言語がないと成り立ちません。
例えば、会社の収益性を把握するためには、その会社の損益計算書や貸借対照表を読み解く必要があります。さらに予算策定や資金調達の判断においても、売上・仕入他、様々な財務データを考慮する必要があります。簿記の知識がないと、これらの業務において的確な分析ができず、結果的に仕事の品質や成果に影響を及ぼす可能性があります。
- 簿記は経理業務の基本言語
- 財務分析のベースとして簿記や会計の知識が必要
このように、簿記や会計の知識は、経理業務において重要な役割を果たします。正確な情報の把握や分析能力は、業績向上や効率的な経営の実現につながります。
理由③「簿記はキャリアアップの役にたたない」
経理は、営業の販売実績のようにわかりやすい数値で評価されづらい職種のため、資格を取っても役に立たないという意見もあります。たしかに、営業などのようにわかりやすい指標のない経理は、スキルアップしても評価されづらいと考えるのもわかります。
ただ、「簿記2級」以上の取得は、社内でのキャリアアップや転職の際のアピールポイントとして大きく寄与します。それは、簿記の知識やスキルが求められる幅広い職業や業種で役立つからです。
キャリアアップにおいて、簿記の知識が不要というのは大きな誤解です。
むしろ、簿記は経理職としての市場価値を高め、キャリアの選択肢を広げるための強力な武器となります。
例えば、以下のようなキャリアパスを目指す場合、簿記の知識は必須です。
- 管理会計や財務分析のスペシャリスト
- CFO(最高財務責任者)などの経営層
- 監査法人や税理士事務所への転職
- M&Aや事業再生などのコンサルタント
簿記の知識は、あなたの経理キャリアを次のステージへと押し上げるためのパスポートのような存在と言えるでしょう。
企業において、会計処理や税務申告の複雑化を背景に、簿記の知識を持つ人材を求める需要が高まっています。僕も転職サイトに登録して、経理求人の案件を確認していますが、「簿記2級取得者優遇」や「簿記2級要」という記載をよく見ます。簿記2級の取得は、これらの企業への就職や社内での昇進のチャンスを広げることとなります。

会社から(昇進の為)簿記2級を求められた後、焦っている同僚を見かけます。
一例として、大手企業や金融機関、公共団体などでも財務管理や予算編成において簿記の知識を持つ人材が重要視されています。実際、僕が勤めている大手メーカーでは、簿記2級保有は管理職昇進への要件とされているくらい重要視されています。
必要になったら取得すればいい、と考えている方もいるかもしれませんが、現在の簿記2級は少なくとも約3ヶ月~半年ほどの学習が必要となります。ネット試験が導入されて受験できる回数は増えましたが、問題の難易度の変動が大きく、「一回の受験で確実に合格できる」とは言えない難易度の試験です。
- 転職の際の要件・アピール材料(経理の場合、簿記2級〜は応募に必須の案件も有り)
- 社内昇進のための要件
以上のように、簿記2級の取得は、キャリアアップにおいて重要な要素となります。幅広い職業や業種で求められる簿記の知識やスキルを持つことで、就職や昇進の機会を拡大し、自身のキャリアをより一層発展させることができます。
さらに、実際に昇進して管理職になった場合、より多くの業務に関わることとなります。例えば自分で実務を担当したことのない業務を含めて管理することとなった場合、経理部内の別業務のメンバーに内容を確認しながら業務を進めることが必須です。
簿記の一通りの知識がないと、他業務の話を聞いても理解できない可能性があります。経理部内での信頼を得るためにも、経理の共通言語としての簿記は、身に着けておくことをおすすめします。
理由④ 「簿記が必要な仕事は外注できる」
簿記の知識が必要な業務は、会計処理業務は経理業務の外注サービス、申告業務は税理士や会計士など専門家に外注すればいいのでは、という意見があります。
確かに、経理業務の一部をアウトソーシングする企業は増えています。
しかし、外注できるのは主にルーティンワークであり、企業の根幹に関わる会計処理や財務管理は、社内で専門知識を持つ人材が担うべきです。
外注に頼りすぎることには、以下のようなデメリットも存在します。
- コストの増加
- 情報漏洩のリスク
- 社内ノウハウの蓄積が困難
- 経営判断の遅れ
簿記の知識を持つ人材が社内にいれば、外注先とのスムーズなコミュニケーションが可能になり、より効果的な連携が実現できます。
専門家に業務を外注する際にこちらの理解が高ければ的確な指示や判断を行うため、費用と時間を節約し、効果的な業務遂行ができるからです。
実際に、多くの企業や組織が、簿記や税務申告の外部委託を行っています。しかし、外部委託先との円滑なコミュニケーションや業務の品質管理をするためには、自身が簿記の基礎知識を持つことが重要です。また、専門家に依存せずに自分で業務を遂行する場合にも、簿記の理解は欠かせません。

簿記や税法の知識がないと、会計の専門家との会話についていけないです。
例として、簿記の知識がないまま専門家に業務を外注すると、適切な報告書やデータの提供ができなかったり、専門用語の理解やコミュニケーションの際に誤解が生じる可能性があります。
僕が子会社立ち上げの際に初めて税務申告を税理士に相談した際は、こちらの税務管理についての理解不足もあり、相談開始~資料提供し、資料作成に至るまで2ヶ月以上かかりました。
もし、自身が簿記の基礎知識を持ち、業務の流れや必要な情報について理解している場合、専門家とのやり取りがスムーズになり、正確な業務遂行が可能となります。
- 必要な情報開示ができ、依頼をスムーズに行える
- こちらの要望を的確に伝えられる
まとめると、専門家に外注する前に自分自身で簿記の基礎知識を身につけることは重要です。それによって、的確な指示や判断ができ、業務の品質を確保するだけでなく、費用と時間を節約することもできます。
理由⑤ 「必要な知識は実務だけで学べる」
確かに、前任者から業務内容を引き継ぐことで、実務を行うことは可能です。そしてもちろん、
実務経験を通じて知識を習得することはもちろん重要ですが、実務だけで簿記の体系的な知識を網羅することは非常に困難です。
実務で得られる知識は断片的になりがちで、以下のような課題があります。
- 特定の業務に偏った知識になりやすい
- イレギュラーな事態への対応力が養われにくい
- 全体像を把握するのが難しい
- 体系的な学習機会が少ない
簿記を学習することで、実務で触れる個々の取引がなぜそのように処理されるのか、その根拠を理解できるようになります。
これにより、応用力や問題解決能力が格段に向上するでしょう。
仕訳等は実務経験で学ぶことができる一方で、簿記の基礎的な理論や法則、規則を学ぶことで、実務の幅を広げることができます。経済産業省の調査によると、実務での経験に加えて簿記の資格を持つ人材が求められており、特に上位の資格を持つ者ほど、高い就職や昇進の機会があります。
例えば、実務経験のみで簿記の知識を得ている場合、特定の業務やタスクに特化してしまい、広範な業務に対応する能力が制限されます。しかし、簿記の基礎知識を習得することで、財務諸表の読み方や会計処理の方法、税務に関する知識など、より広い視野で業務に取り組むことができます。
また、簿記の資格取得は実務経験の裏付けとなり、信頼性のある経験者としての評価を得ることができます。
- 業務経験を経理知識として転換でき、活用の幅が広がる。
- 突発的な事態に対応できる知識のベースとなる
- 業務経験の外部への裏付けとなる
上記のように、実務で学ぶ簿記の知識は重要ですが、それは簿記の一部分に過ぎません。簿記の体系的な理解と基礎知識を学ぶことで、実務においてより深い理解と効率的な業務遂行が可能になります。
よくある質問と回答

Q1: 簿記の知識がないと、経理の仕事はできないのですか?
A1: いいえ、簿記の知識が全くなくても、経理の仕事に就くことは可能です。
しかし、それは主に記帳補助やデータ入力といった定型的な業務に限られることが多いでしょう。
簿記の知識がない場合、以下のような制約が生じる可能性があります。
- 業務の全体像が把握しにくい
- 仕訳の意味が理解できず、ミスに繋がりやすい
- イレギュラーな処理に対応できない
- キャリアアップの機会が限られる
簿記は経理の基礎であり、深い知識があれば、より専門的な業務や責任のあるポジションへとステップアップできます。
Q2: 簿記の知識なしで、経理の効率化や自動化は実現できますか?
A2: 簿記の知識がなくても、RPAツールの導入やクラウド会計ソフトの活用によって、一部の業務効率化は可能です。
しかし、真の効率化や自動化には、簿記の知識に基づいた業務フローの最適化が不可欠です。
簿記の知識があれば、以下のようなメリットがあります。
- 既存業務の問題点を的確に洗い出せる
- 自動化すべきプロセスを正確に判断できる
- システム設定の最適化提案ができる
- 導入後の運用トラブルにも対応しやすい
簿記は、効率化や自動化の戦略を立て、それを実現するための設計図のような役割を果たすのです。
Q3:経理未経験ですが、簿記2級まで必須でしょうか
A3:未経験から転職するには簿記2級までの学習は必須、と考えていた方がいいです。理由としては、実際に取得できるかどうかは別としても、簿記2級までの学習を避けたいというような感覚の方は、あまり経理(特に財務会計分野)は向いていないからです。
月次締め業務も決算業務も、経理業務は制度の理解を前提とした数値の理解と地道な作業の連続です。もし、答えが決まっている簿記の学習を嫌がっているようでは、経理となった時につらさしか感じられず、力を発揮できないからです。
以下に、簿記の級数と経理未経験者の就職における目安を示します。
簿記の級数 | 就職のしやすさ(経理未経験者) | 担当できる業務の範囲(初期) |
簿記3級 | 基礎知識として評価される。中小企業の補助業務など。 | 入出金管理、伝票整理、仕訳入力の補助など。 |
簿記2級 | 多くの企業で高く評価される。幅広い経理業務に対応可能。 | 月次決算、試算表作成、売掛金・買掛金管理など。 |
簿記1級 | 非常に高く評価される。即戦力として期待される。 | 年次決算、連結決算、税務申告など。 |
まずは簿記3級から始めて、経理の基礎を固め、自信がついたら簿記2級を目指すのが現実的なステップと言えるでしょう。
まとめ:簿記知識は必要!早々に学習を始めよう
ここまで、「簿記はいらない」と言われる主な理由に反論し、簿記知識が経理実務においていかに不可欠であるかを解説してきました。
簿記は、経理業務の根幹を支える羅針盤であり、あなたのキャリアを豊かにするパスポートです。
- AI時代においても、簿記の深い知識は人間の強みとなる
- 実務のあらゆる場面で簿記の知識は不可欠
- キャリアアップを目指すなら簿記は強力な武器
- 真の効率化には簿記の体系的な理解が必須
簿記の学習は、あなたの経理人生に確かな基盤と広がりをもたらします。
さあ、今日から簿記の学習を始めて、経理のプロフェッショナルとしての道を切り拓きましょう。
まずは、自分のレベルに合った簿記検定試験の学習から始めてみることを強くおすすめします。
簿記の資格取得は、あなたの経理キャリアを確実に後押ししてくれるはずです。
資格取得後に業務に活用するために、効率的に学習を行い、簿記検定に合格しましょう。
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